単語はどうやって覚えるか

単語帳を終えたのに洋書が読めない理由」という記事で、高校卒業後は、新出の単語は、低頻度の単語が中心になる、という旨の話をしました。

低頻度の単語は、低頻度であるがゆえに、覚えるのが大変です。

そこで、いかに覚えやすくするか、その工夫についてお話ししたいと思います。


ただ、これは、あくまで「多くの英語に触れる」ことが大前提。

「多くの英語に触れる」が縦糸だとしたら、知識は横糸です。
横糸だけでは、布を織りなすことはできませんので、ご注意ください。


受動語彙とは

受動語彙、能動語彙、という言葉は聞かれたことがあろうかと思います。

・受動:聞いたら意味が分かる
・能動:自分で使いこなすことができる

本記事では、「単語はどうやって覚えるか」をテーマにし、受動語彙を扱いたいと思います。

能動語彙については、別記事「覚えた単語を使えるようにする方法」で解説します。

単語を覚える過程は、細かく分けると、およそ次のようになります。

①出会う(聞く・目にする)
②なんとなく意味をイメージする
③繰り返し出会う
④違うジャンル・メディアで再会する
⑤英語で意味を確信する
⑥聞いても読んでも瞬時に意味が分かる

⑥まで行くと、自分で運用する準備が整ったと言えます。

ただ、すべての単語が、最後まで行き着くわけではなく、①、②で止まるものも出てきます(後述するように、それで構わないものもあります)。

概して、①から⑥へ進むにつれて、単語の数は減っていきます。


①出会う(聞く・目にする)

まず、単語に出会わないことには、何も始まりません。

相手は、10万語(あるいは100万語)のテキストの中に、数回しか現れない単語です。

高校までは、出会う努力をしなくても、単語帳が用意されていました。

今後は、出会うこと自体が難しいので、とにかく、より多くの英語に接することが重要になります。

ただ、たとえ出会ったとしても、次に会うのが数か月後では、まず、覚えていられませんね。

それが、低頻度の難しさです。

そこで、なんらかの工夫が必要になってきます。


②なんとなく意味をイメージする

多くの英語に触れると言っても、単に英語が目の前を通り過ぎていくだけでは、なんにもなりません。

記憶にひっかけるための、何らかのフックが必要になります。

それが、「②なんとなく意味をイメージする」です。

「お?」と一瞬でも目にとまることが大事で、次に進めるかどうかの分かれ目になります。

これにはいろいろなパターンがあります。


ファミリー

beauty、beautify、beautifulなど、品詞違いのファミリーは、初見でも、比較的容易に意味をイメージできますね。

下記のような、規則性のあるものは、楽です。

 curvy → curveの形容詞形
 drowsiness → drowsyの名詞形
 contentment → contentの名詞形
 thoughtless → thought+less

thoughtlessが、さらにthoughtlessnessになったとしても、対応できると思います。

不規則なものも、形が似ていれば、なんとなく分かります。

 rarity → rareの名詞形
 anxiety → anxiousの名詞形

対義語も、規則性があるものが多いです。ただ、少し難しくなります。

 incoherent ⇔ coherent
 irresolute ⇔ resolute
 illegality ⇔ legality
 asymmetric ⇔ symmetric


運用の段階では、品詞を使い分けていく必要がでてきます。

 She was calm.
 Her calmness reassured everyone.

 She sounded confident.
 Her confidence inspired the team.

自分で話しながら、上記のような品詞の変換を、瞬時に行っていくのは、結構大変です。それが、能動化の難しいところですね。
後々のためにも、ファミリー単位で、各品詞はまとめて覚えておきたいものです。


語根/接頭辞/接尾辞

「語根を活用せよ」とは、受験の頃から、言われてきたことではないかと思います。

もっとも、面倒なので、丸暗記で済ませてしまったかもしれません。

高校までは、それで済むレベルでしたが、今後は、数が膨大なので、いよいよ本当に取り組まざるを得なくなってきます。

ただ、実際は、難易度に差があります。

 inspect、respect、spectator → spect(見る)

これは楽ですね。

 benediction(祝福)
 contradict(矛盾する)
 predicament(苦境)

これらはすべてdict(言う)という語根を持っています。

接頭辞 bene(よい)、contra(反対)の知識があれば、benediction、contradictは、意味をイメージできるでしょう。
なければ、ちょっと厳しいですね。

predicament(苦境)になると、本当に厳しいです。

よく参考書に載っているのは、ject(投げる)ですが、これも、

 eject(放出する)
 inject(注射する)

は、比較的易しいですが、

 abject(悲惨な)

になると、やや難しいかもしれません。

このように、すぐにイメージにつながるものと、そうでないものが混在しています。

万能ではありませんが、記憶の助けになるのは間違いありません。


また、その単語の持つ、本質的な意味が見えてくるという、効能もあります。

先のabject(悲惨な)は、

 ab(離れて)+ject(投げる)

という語源から成り立ち、「投げ捨てられた → 見捨てられた」という意味を持ちます。

「極度の貧困」というとき、英語では、extreme poverty が一般的ですが、abject poverty を使う場合もあります。

このとき、単なる貧困ではなく、「見捨てられた」というニュアンスが加わります。

日本語では、どちらも「極度の貧困」と訳されますが、英語ではかなり印象が違ってきますね。

後述するように、英語で意味を理解していると、運用時に役立ちます。
語源は、そのヒントになります。


分野

ある特定の分野に関わる語があります。

たとえば、以下の接尾辞は、医学用語になります。

-itis(炎症)
 Bronchitis 気管支炎
 Laryngitis 喉頭炎
 Arthritis 関節炎

-osis(病的状態)
 neurosis 神経症
 tuberculosis 結核
 osteoporosis 骨粗しょう症

-phobia(恐怖症)
 acrophobia 高所恐怖症
 hydrophobia 恐水病

-emia(血液)
 leukemia 白血病
 anemia 貧血

このように、-itis(炎症)という接尾辞を知っていれば、bronchitis(気管支炎)を知らなくても、「何かの炎症だな」と了解することができます。

また、それだけで事足りることも多いのです。

日本語でもそうですが、専門家でなければ、その正確な意味を知らなくても、病名であることが分かれば、それで充分な場合があるでしょう。

この節では、記憶のフックにひっかけ、次に進むための方法を解説していますが、「次に進まなくてもいい」ものを選別するのも、大事です。

覚える単語の数を、減らすことができます。

医学用語のような分野語彙は、日本語で理解している以上に、英語で理解することは、まず、ありません。

日本語で「炎症」で止まっているのであれば、英語も同じレベルで構わないでしょう。


「gl」という音が、「光」を表すことは、よく知られています。

glow、glint、glitterなどを挙げることができますね。

同じように、音が特定のイメージに結びついていることがあり、この知識があると、記憶の保持に役立ちます。

たとえば、以下の例が挙げられます。

・gr(不快)
 grumble 文句を言う
 gruff 荒々しい
 groan うめく

・fl(軽やかさ)
 float 浮く
 flutter はためく
 flap ぱたぱた動く

・squ(ぐちゃぐちゃ)
 squash 押しつぶす
 squish   ↑
 squelch   ↑
※すべて「押しつぶす」の意で、日本語で言えば、「ぐちゃっ」「ぶちゅっ」「がぼっ」のように、つぶした時の音感が異なる。


文脈

一般に、一文に未知語が一つだけの場合は、文脈から、未知語の意味を類推できる可能性が高い、と言われています。
二つ以上になると、かなり難しくなります。
単語自体にフックがなくても、意味に悩むと、記憶に残りやすくなります。


③繰り返し出会う

一回見ただけで、単語を覚えられる人はいません。
やはり、何度か出会う必要があります。

ここで大事なのは、2回目に見たときに、「初めてじゃない」と気づくことです。
気づかなかったら、蓄積になりません。
初出と思い、また同じ過程を繰り返すことになります。

前節で紹介したのは、「初めてじゃない」と気づくためのテクニックでした。

ただ、低頻度の場合は、なかなか出会えないことが難点です。
時間が空くと、どうしても忘れてしまいます。

そこで、大作や、シリーズもの、いわゆる「厚い本」は、その対策になります。

概して、厚い本は敬遠しがちだろうと思います。

確かに、とっつきにくいですね。
薄い方が、すぐに読めて、よさそうに見えます。

ただ、繰り返し出会える、という面から言うと、厚い本は、なかなか優れているのです。

たとえば、下のグラフは、ハリー・ポッター各巻の新出単語数を表したものですが、巻が進むにつれ、減っていくことが分かります。

6、7巻になると、新出単語の数はぐっと減っています。
かなり快適に読めそうですね。

一般に、ハリー・ポッターは、1巻が読みやすく、だんだん難しくなる、と思われています。
ところが、語彙の面では、逆に、だんだん楽になる、ということが分かります。

もちろん偏りはあります。
ただ、それは、何を読んだとしても同じです。

繰り返し出会うには、一冊の厚い本。

偏りを解消するには、たくさんの薄い本。

それぞれ長所と短所がありますので、うまく組み合わせて学んでいくのがいいと思います。


④違うジャンル・メディアで再会する

では、何回くらい出会えば、単語を覚えることができるのでしょうか。

難易度によって変わりますが、一般に5~20回と言われています。

ここでは、回数ばかりでなく、複数のジャンル・メディアで見かけることも大事、という話をしたいと思います。

人の脳とはよくできたもので、不要なことにリソーセスを割くことを避けようとします。

前節で、厚い本であれば、繰り返し出会う可能性が高まる旨、説明しました。

ただ、それだけでは、脳は「本当に大事な単語か?」と納得せず、素直に覚えようとはしないようなのです。

自分の脳ですが、なかなかだますことはできません。

そこで、他の本、他のジャンル、他のメディアで出会うことが大事になってきます。

これで、脳も、ようやく「これは覚える価値がありそうだ」と考え出すようなのです。

たとえば、本で覚えた単語に、映画や、ドラマ、洋楽、ニュースなどで出会うと、強く印象に残り、定着につながります。


以上、低頻度ながらも、複数回、なんとか出会う工夫について話してきました。

それでも、出会わなかったとしたら、どうすればいいのでしょうか。

それは、今回はご縁がなかったとしか言いようがありません(笑)。

数百万語のテキストで、使われた回数は一回こっきり。

多くの英語に触れていると、そんな単語はわんさか出てきます。

それを覚えろ、というのは、どだい無理な話なのです。

読み返したとき、新しいジャンルに挑戦したとき、英語を話し始めたとき、もう一度、機会が訪れます。
そのときを待ちましょう。


⑤英語で意味を確信する

ここでいう「意味を確信する」は、「日本語で」ではありません。

英語そのもので、意味を確信する、というものです。

英語と日本語は、一語一語きれいに対応するわけではありません。

たとえば、spareを辞書で引くと、複数の意味が出てきます。

・予備の
・惜しむ
・時間・金・資源を割く
・不快な目にあわせない
・命を助ける

日本語で考えると、それぞればらばらに見えますね。

実際は、spareには、spareの意味しかありません。

何かを「外す」、と考えると、理解しやすくなります。

・予備の (使う予定から「外す」)
 spare key(予備の鍵)

・惜しむ (使う予定から「外す」)
 We should spare our supplies for later.
 (物資は後のために温存しておくべきだ)

・時間・金・資源を割く (予定から「外して」回す)
 We can’t spare any staff for that project.
 (そのプロジェクトに人員を割く余裕はない)

・不快な目にあわせない (不快な運命から「外す」 )
 He tried to spare her feelings.
 (彼女の気持ちを傷つけないようにした)

・命を助ける (死の運命から「外す」)
 Please, spare me !
 (どうか殺さないで!)

最初は、英語を理解するのに、日本語を通すことは、避けられません。

ただ、そのままでは、英語の運用は非常に困難になります。

日本語 ⇔ 英語の翻訳を繰り返していては、とうてい会話は成り立たないこと、想像に難くないですね。

ですので、能動化に移るこの最後の段階で、英語で完結して、本質的な意味を理解しておくことが、大事になります。

それは、一つの例文を見ていただけでは、なかなかできません。
上記のように、様々な角度から検討することで、本質に近づくことができます。

そのためにも、多くの英文に接することが重要であること、お分かりいただけるかと思います。

「多くの英語に触れる」が縦糸、知識は横糸です。