単語帳を終えたのに洋書が読めない理由

「ターゲット1900を終えた」
「シス単も、金フレも、英検の単語も覚えた」
よし! あの本を読むぞ!
自信満々で洋書を開いたら・・・
あれ?
・・・・・・・読めない?
そんなばかな。
「これですべて」ではなかったのか?

単語帳だけでは語彙が足りない

「これだけでオーケー、厳選1900語」
「英語は、頻出○○語で十分」

単語帳で、よく見るキャッチコピーですね。

これ自体は、間違っているわけではありません。

次のグラフをご覧ください。
(モデルとして単純化してあります)

横軸:使用頻度の高い順(左から)
縦軸:カバー率

使用頻度が高い、約3,000語Word Family(以下、WF)で、カバー率は90%に達します。

中学・高校では、単語を覚えることが、テストの点数につながったと思いますが、このグラフを見ると、その理由がわかりますね。

単語帳は、この高頻度3,000語を主な対象としているわけですが、その目的(入試など)には適ったものと言えます。

ただ、普通の英語を理解するには、カバー率90%では、足りません。

たとえば、洋書を読んで、1ページに200語が使われているとすると、その10%、つまり、20語が未知語、ということになります。

1ページに、20の未知語があったら、ちょっと読む気がしませんね。
数語に抑えたいところです。

研究でも、1ページに数語(カバー率98%)になって、無理なく読めるようになると言われています。

そのために必要な語彙数はどれくらいでしょうか。

あらゆるテキストに対応しようとすると、一般に、14,000語WF以上が必要とされています。

ただ、それはネイティブ並ということなので、学習者としては、8,000語という数字が、目標として設定されることが多いようです。

思いのほか、多いですね。

グラフの通り、最初の3,000語を過ぎると、頻度はガクンと落ちます。
使用頻度が低いので、少しカバー率を上げるためにも、たくさんの数を必要とするのです。


さて、まずは、ご自分の現在の語彙数を測ってみましょう。

語彙数の測定には、様々なサービスが公開されています。

なかでも、Vocabulary Size Testは、時間はかかりますが、詳細を知ることができるので、お勧めです。

VST (computer/practice )

Word Family換算では、たとえば、
help
helpful
helpness
は、同じファミリーとして、1語とカウントします。
単語帳の一般的な数え方とは違うので、ご注意ください。


高校卒業後、語彙はどう増やせばいいのか

ここでは、現在の語彙を、仮に3,000語WFとしておきます。
※日本の指導要領の目標が3,000語

そうすると、8,000から3,000を引いた、5,000語が、次の目標ということになります。

これを、どのように習得すればいいのでしょうか。

これまで通り、単語帳でしょうか。

それとも、グレード本でしょうか。

答えは、いずれも、ノーです。

まず、単語帳ですが、高校までは、単語帳で覚えた単語は、すぐに文章の中に登場したと思います。
単語帳だけ、文章だけでは、なかなか覚えることはできませんが、単語帳で覚えた直後に文章で見つける、ということを繰り返すと、記憶は強固に定着していきます。

ところが、これからは、低頻度の単語になります。
単語帳で覚えても、すぐに文章で目にするとは限りません。

たとえば、毎日100個ずつ覚えたとして、5,000終えるには、50日かかります。
苦行そのものですが、仮にやり切ったとして、文章で出会うのが、数か月後、あるいは数年後だとしたらどうでしょう。
覚えている人は、まず、いませんね。

低頻度の単語帳は、ほとんど市販されていませんが、それもそのはず、需要がないのです。

次に、グレード本ですが、グレード本は、そもそも高頻度の単語で書かれたものなので、低頻度の単語はほとんど登場しません。

それでは、どう学べばいいのでしょうか。

従来は、いい方法がない、という状況でした。

低頻度の単語を一通り目にするには、大量のテキストを読むほかないのですが、そもそも90%のカバー率では、読もうにも読めないのです

辞書を引いていては、それに時間を取られて、消耗してしまいます。

個人的には、これが、多くの人が英語を諦める理由だったと考えています。

ところが、最近は、AIの登場により事情が変わってきました。

これから読もうとしている本の単語帳を、AIに作ってもらえばいいのです。

たとえば、Holes(Louis Sachar著)を読むにとしたら、

これから『Holes』第1章を読みます。
高校卒業程度(約3000WF)の学習者向けに、
・覚える価値のある単語
・固有名詞は除く
・章に合った意味
で一覧を作ってください。

というようなプロンプトを送ると、『Holes』第1章専用の単語帳を作ってくれます。

ただ、AIも万能ではなく、著作権の問題で対象が限られたり、必ずしも意図した通りの解答が得られなかったりします。
実際は、工夫しながら対応していくことになりますので、それはご留意ください。

いずれにしろ、英語を運用することを考えると、多読は必要です。
それに合わせて、語彙の増強もできるとしたら、効率的になるのは間違いないですね。


なお、『ハリー・ポッター』については、本サイトで専用の単語帳を作ってあります。
ぜひ、ご活用ください。

『ハリー・ポッター』原書ガイド
原書をスムーズに読めるように、物語の進行に合わせ、語彙の解説をしています。


低頻度には「一般語彙」と「分野語彙」がある

一口に低頻度と言っても、具体的には、どのような単語でしょうか。

説明のために、語彙を大きく3つに分けて考えてみたいと思います。

基盤語彙:高頻度の語彙 3,000 WF
一般語彙:低頻度の語彙
分野語彙:分野ごとに異なる語彙

基盤語彙は、上記で説明した、高校までに学ぶ高頻度の単語のことです。多くの人は、習得済みでしょう。

分野語彙は、ジャンル特有の語彙(学術用語など)になります。

それ以外は、一般語彙としましたが、定義が曖昧なので、具体例を示します。

基盤語彙一般語彙分野語彙
植物roselilyfoxglove
動物dogsquirrelaardvark
redcrimsonvermilion
料理spoonkettleramekin

主観による区分けなので、多少違和感があるかもしれませんが、説明の都合上、仮に分けているだけなので、ご容赦いただけたらと思います。

rose、dog、redは、間違いなく基盤語彙ですね。

一般語彙とした、lily、squirrel、crimsonは、rose、dog、redに比べると低頻度ですが、ネイティブであれば、誰でも普通に知っています。

分野語彙になると、foxglove(ツリガネニンジン)、aardvark(ツチブタ)、vermilion(朱色)と、専門的になり、その分野に興味がないと、ネイティブでも分からない人が出てきます。

こう考えると、まず、一般語彙を学ぶのが効率的に見えます。
ただ、上記のように、一般語彙だけをまとめた単語帳、グレード本はありません。

普通の洋書はというと、分野別になります。

つまり、園芸書であればrose、lily、foxgloveが、油彩の本であればred、crimson、vermilionが、料理本であればspoon、kettle、ramekinが、それぞれ一緒になって出てきます。

実のところ、基盤語彙以外は、分野によって大きく偏ります。

小説、一般書、新聞、雑誌、コミックなど、メディアによっても偏りが見られます。

さらに細かくみると、同じ小説でも、恋愛、ファンタジー、SF、ミステリーなど、ジャンルによって語彙は分かれます。

逆に言うと、もしあなたが、何か特定の分野に興味があるのであれば、その分野の語彙を習得すればいい、ということになります。

先に、あらゆるテキストに対応するには、14,000語以上という数字を紹介しましたが、別に、読みたいものが読めるのであれば、語彙数はいくつだって構わないわけです。

ある高名な経済学の先生が、ハリー・ポッターは難しくて読めなかった、と言っているのを聞いたことがあります。
学術誌に英語で寄稿しているような先生でも、ジャンルが違うと、苦戦することがあるんですね。
ただ、それで困っているかと言うと、困っていないんだと思います。論文を書き、読むうえでは、問題ないわけですから。

わたし自身は、先にご紹介したVocabulary Size Testで、約11,000の語彙があるという推定結果でした。
小説を中心に読んできたので、やはり不得意な分野があると自覚する次第です。
ただ、読みたいものは、それなりに読めるので、やはり困ってはいないのです。

よく、好きなものを読めばいい、ということが言われますが、その通りだと思います。

みなさんにも、ずっと読んでみたいと思っていた本があるのではないでしょうか。

ぜひ、読みたいものを読んでいただけたらと思います。

先に紹介した、AIを活用した方法なら、難易度もそれほど気にする必要はありません(ただ、さすがにシェークスピアのような古典は避けた方が無難だと思います)。


好きな本から、新しい世界へ

最後に、好きなものを読んだとして、次にどうするか、という話をしたいと思います。

好きなものを読むにつれ、一般語彙は、増えていきます。

ただ、分野語彙は、分野を変えない限り、増えません。

先に、語彙数のテストについて紹介しましたが、ネイティブの院生は、このテストで、ほぼ満点を取るそうです。
かなり幅広く本を読まないと、満点は難しいと思うのですが、やはり、知識人ともなると、いろいろなジャンルを満遍なく読みこなしているのですね。

また、英語ができる人に、どうやって語彙を身につけたか聞くと、よく、「多読」という返事が返ってきます。
これは、量が「多」であることはもちろんですが、ジャンルも「多」であることを意味しているのでしょう。

そもそも、英語は、視野を広げ、新しい世界への扉を開くもの。

好きなものから読むにしろ、そこに発見があって、新しい興味が生まれたら、ぜひ、次々と扉を開いていってください。

「気づいたら、何でも読めるようになっていた。」

そんな学び方が、理想なのではないかと思います。