ハリー・ポッターの難易度は、次のように評価されています(一例です)。
・ネイティブ:小中学生から高校生以上(Lexile880L〜1030L)
・日本人:上級者向け(YL6.0-9.0)
ネイティブは子供から大人まで楽しめるものの、日本人には少しハードルが高い、といったところでしょうか。
当サイトでは、具体的に、どのような英語で書かれているのか、また、日本人にとって難しいポイントは何か、単語、熟語、文法、「魔法界の言葉」など、テーマ別に検討していきたいと思います。
当記事は、第一弾として、単語について扱います。
単語の難易度は、一覧すれば一目瞭然ですので、ハリー・ポッターの全単語(通常の英語)を掲載しておきました。サイドバーよりダウンロードが可能です。
ハリー・ポッターの単語数は1万語
ハリー・ポッターは、1~7巻合計で、101万語の文章量があり、使われている英単語の数は、約1万語になります(筆者集計)。
詳細は次の通りです。
語数 | 単語数 | |
通常の英語 | 1,009,973 | 9,865 |
固有名詞、魔法界の言葉など | 80,543 | 1,544 |
合計 | 1,090,516 | 11,409 |
「魔法界の言葉」は後日のテーマとし、以下では、「通常の英語」1万語に絞って検討を進めていきます。
推奨単語との比較
単語の難易度を計るために、Oxfordなどが公表している、推奨単語と比較してみましょう。
比較に用いたリストは以下の通りです(偏りを防ぐため複数と比較します)。
Oxford 3000, 5000 | 基本単語3,000語+2,000語 |
CEFER-J | 欧州共通言語参照枠(CEFR)7,800語 |
JACET | 大学英語教育学会(JACET)が刊行する学会公式語彙表 8,000語 |
NGSL+TSL | 英語を第2言語として学ぶ学習者向け2,800語+TOEIC用 |
各機関によって考え方は異なりますが、ここでは、便宜上、推奨単語を3つのクラスに整理しておきます。
① 語彙 3,000語クラス | 初級者向け(中学レベル) | |
② 語彙 5,000語クラス | 中級者向け(高校レベル) | |
③ 語彙 8,000語クラス | 上級者向け |
この推奨単語と、ハリー・ポッターの単語とどれくらい一致するか表したものが、次のグラフになります(通常の英語101万語=100)。
98%は優先的に学びたい単語
グラフで見ていただいた通り、それぞれ
・3,000語クラスで90%(基本語彙)
・5,000語クラスで94%
・8,000語クラスで98%一致します。
つまり、ハリー・ポッターの98%は、優先的に学びたい単語で書かれていることになります。
基本語彙以外は低頻度
ハリー・ポッター101万語の文章量の中で、各単語が何回使用されているか、クラス別の平均値を表したのが次のグラフになります。
基本の3,000語以外は、極端に使用回数が少ないですね。
これは、ハリー・ポッターに限ったことではなく、実は、一般的な現象になります。
そもそも言語は、使用頻度は極端に偏ることが知られており、多くの言語で、高頻度の数千語で9割以上をカバーすると報告されています。
前述の「3,000語で90%をカバー」と同じことを、見方を変えて言っているだけなのですが、それにしても、100万語中、数回しか使われないとは、ガックリきますね(笑)。
この頻度では、優先度を気にしても仕方がないので、目の前の単語に取り組んでいくようにしましょう。
2%は個性的な「強い言葉」
98%は一般的な単語として、残りの2%はどうでしょうか。
トップ10の顔ぶれは、以下のようになります。
wand | 1,872回 | shriek | 171回 | |
potion | 466回 | goblet | 150回 | |
parchment | 260回 | dungeon | 122回 | |
cauldron | 194回 | jinx | 122回 | |
quill | 178回 | snarl | 115回 |
いやあ、個性的ですね(笑)。
他ではあまり見ない、ハリー・ポッターの個性や魅力を伝える言葉になっています。
wand(杖)、potion(魔法薬)は、魔法界ならではですね。
shriek(金切り声を出す)、snarl(歯を剥いてうなる)が上位に来ていますが、いやはや、登場人物たちは、どんな会話を交わしているのやら。
一般的に、高頻度で汎用性が高い言葉は、悪く言うと、「平凡」「ありふれた」「弱い言葉」になりがちです。
逆に、低頻度の言葉には、全てではありませんが、ここぞという場面でしか使われない「強い言葉」が潜んでいます。
本や映画のタイトル、ドラマの決めセリフには、このような「強い言葉」が選ばれる傾向があります。
一般的な文章でも、その文章の意味を理解するために、欠かすことができないキーワードは、この種の言葉であることが多いです。
ハリー・ポッターでも、タイトルに選ばれたのは、goblet(ゴブレット)やhallows(秘宝)でしたね。
頻度だけでは重要度を計れないのが、言葉の難しいところです。
さて、ハリー・ポッターでは、このクラスの単語は2,607語あります。
(全単語は、サイドバーよりダウンロードすることができます)
ハリー・ポッターは3,733ページですので、10ページ当たり7個登場するイメージです。
汎用性が低いのは確かなので、どこまで学習すべきか迷うところですが、本当に強い言葉は、やはり記憶に残りますので、あまり意識しなくても自然と選別ができてしまう、というのが私の実感です。
ハリー・ポッターは、語彙力8,000語を目指す人向き
以上、ハリー・ポッターで使われている単語について分析してきました。
英語の難易度は、単語だけで決まるわけではありませんので、今後、熟語、文法などについても記事をあげていきたいと思います。
ここでは、単語力の面から結論を述べたいと思います。
日本では、高校までに4,000~5,000語を履修すること、また、TOEICの平均点が600点前後で推移していることから、多くの方が、4.000~5,000語の語彙を習得済と考えられます(もしくはそれ以上)。
そのような方にとって、次の目標は語彙力8,000語(もしくはそれ以上)になるのではないかと思います。
このクラスの単語は、上述のように、使用頻度が低く、短い文章ではなかなか登場しません。
また、「重要単語集」のような教材で学ぼうにも、世にあるのはTOEICに特化したものがほとんどのようです。
その点、ハリー・ポッターなら数千語をまとめて学ぶことができます。
これは大きな利点です。
他に教材を探すと、同じ100万語レベルの文章量を持つテキストから選ぶことになりますが、候補はそれほど多くありません。
というか、ハリー・ポッターを読みたいですよね(笑)。
ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人組と一緒に旅をして、一緒に泣き崩れ、一緒に笑い転げるのは、本当に楽しいものです。
その上、語彙力も身につくなら、こんな得な話はないではないですか?
涙がこぼれ、笑い転げるようなテキストでないと、英語なんて身につかない、というのが私の持論です。
ということで、まとめると、ハリー・ポッターは、次のような学習目標を持つ方にお勧めします。
3,000語クラス | スラスラと読めようになりたい |
5,000語クラス | 復習したい |
8,000語クラス | 新たに習得したい |
8,000語超 | 「楽しむ」(覚えなくてもよい) |
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は「句動詞」を取り上げる予定です。