②ハリー・ポッターを英語で読むための会話力

Vocabulary

句動詞とは

句動詞は、動詞と副詞・前置詞が組み合わさって、新しい意味となる動詞です(熟語の一種)。

具体例を見れば、一般的な動詞との違いはすぐに分かります。
以下は、前者が句動詞、後者が一般的な動詞の例です。

● 会議を来週まで延期しなければならない
We have to put off the meeting until next week.
We have to postpone the meeting until next week.

● ついにタバコをやめた
I finally gave up smoking.
I finally abandoned smoking.

● 彼はその仕事のオファーを断った
He turned down the job offer.
He refused the job offer.

● モールで古い友人に偶然会った
I ran into an old friend at the mall.
I encountered an old friend at the mall.

英会話が苦手な理由

いかがだったでしょうか。

句動詞は、口語的で、柔らかい感じがあり、親密な印象ですね。
一方、一般的な動詞は、いかにも堅い感じです。

一般に、日常会話では句動詞が使われます
友人との会話で、encounterのような言葉は場違いだと、ネイティブでなくても分かりますね。

ところが、日本の学校教育では、一般動詞が優先され、句動詞は一部しか教えられません。

別の言い方をすると、文章優先で、会話は後回しになっています。

そのため、日本人が英語を話すと、run intoよりencounter、put offよりpostponeを使い、不自然な英語になる傾向があります。

そもそも、run intoを知らなければ、意思疎通もままなりません。

これが、日本人は英会話が苦手、と言われる理由の一つになっています。

攻略のカギは副詞・前置詞

句動詞を始めとした、熟語を攻略するカギは、ずばり、副詞・前置詞になります。
具体的には、主に次のような単語です(総数は100を超えます)。

inatonfor
withbyoffagainst
intothroughaboveacross

句動詞は、動詞の数×副詞・前置詞の数だけ存在し得ますので、それこそ膨大な数があります。
そのうえ、日々、新しく生まれています。

そこで、副詞・前置詞を理解することが重要になります。
副詞・前置詞を理解すれば、覚えるのが楽になりますし、初めて見る句動詞でも、ある程度意味を類推できるようになります。
(意外な意味に転じることもあり、確認は必要です)

上の単語は、すべて、よくご存じですね。
しかし、実は、それぞれ多様な意味・用法を持っており、それが動詞と結びつくことで、豊かな表現を生みだしています。見た目ほど簡単ではありません。

その具体例をハリー・ポッターから見てみましょう。

ハーマイオニーの例 「off」

●ハーマイオニー
I’ve learnt all our set books off by heart, of course.
もちろん、指定の教科書はぜんぶ完璧に覚えたわ

offは「完了」を表す副詞で、learn offは「完璧に覚える」という意味になります。

learn offのような句動詞は、受験英語を勉強しただけでは、なかなか出てこないのではないでしょうか。思わず、I’ve memorized all our set books. としませんか? もちろん間違いではないのですが、話し言葉っぽくないことはお分かりいただけると思います。

同種のものに以下があり、offが「完了」を表すことを理解していると、覚えるのが楽になります(すべてハリー・ポッターに出てくるものです)。

finish off(殺す)、bump off(殺す)、pay off(清算する)、bring off(やり遂げる)、pull off(やってのける)

マルフォイの例 「on」

●マルフォイ
You hang around with riff-raff like the Weasleys and that Hagrid and it’ll rub off on you.
ウィーズリー家やハグリッドのような下層民とつるんでいると、癖が移る

onは、動作の対象を示します。

この文は、一般動詞での言い換えが難しいです。
敢えて言うと、Their influence will affect you.などが候補でしょうか。
なんだかお上品な感じになって、迫力がありませんね。やはり、どすが利いた rub off on が、このシーンには似合います。

マルフォイの次のセリフも、どすが利いていますね。

I’d take you on any time on my own.
いつでも一人で相手してやる

onが動作の対象を示すことを理解していると、次のマクゴナガル教授のセリフもすっと分かります。

Two on one !
一人に二人がかりで!
(ハリーとジョージが叱られています)

同種の句動詞には、他に以下のものがあります。

pick on(…のあら探しをする)、bear down on(…に重くのしかかる)、take it out on(…に当たり散らす)、work on(…に取り組む)

ダンブルドアの例 「away」

●ダンブルドア
Fire away.
どんどん質問しなさい

教師が生徒に質問を促すときの決まり文句です。
awayは副詞で、命令法で用いると、「ためらわずに」「どんどん」という意味になります。

これを、Feel free to ask. とすると、ビジネス英語のようになってしまいますね(笑)。
やはり、その場その場に合った、決まり文句、慣用句を使った方が、自然な英語になります。

なお、awayは、叙実法(直接法)で使うと、「行動の連続」を表すことがあります。
地の文ですが、次がそれに当たります。

Mrs Dursley gossiped away happily as she wrestled a screaming Dudley into his high chair.
ダーズリー夫人は、ダドリーが高い椅子に取り押さえられて叫ぶのをものともせず、楽しそうに噂話しを続けた

ちなみにintoには「強制」のニュアンスがあります。そのような細部も読み取れると、より生き生きと登場人物たちの気持ちを感じることができますね。

会話を学べる格好の例文集

副詞・前置詞は、案外、読解の妨げになります。
というか、よく見慣れた単語なので、見逃して、読解できていないことに気づかないこともあります。
やっかいですね。

副詞・前置詞のような、シンプルな言葉こそ、大量の文に触れて習得していく必要があります。
英語学習において、「多読」の有効性はよく言われます。
副詞・前置詞については、フィーリングがつかめるまで練習しましょう。

読む対象は、条件を満たすものであればなんでもよいのですが、ハリー・ポッターはよい教材と言えます。

学校は、典型的な「句動詞で話す場」です。

ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人組は、3人の時はもちろん、周りの親しい大人たちと会話する時も、敵と罵り合う時も、句動詞(+非公式な俗語)で話します。

まさに生の英語を学べる格好の例文集となっています。

彼らの会話に参加して、英語のセンスを磨くのも、一興ではないでしょうか。


なお、今回は、3つの例だけ挙げましたが、いずれ、副詞・前置詞について、個別に詳しく説明したいと考えています。
次回は、「方言・訛り」について述べたいと思います。